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小特集 企業による核融合研究の最近の動向 2.北米における起業精神と核融合開発
2. Entrepreneurial Spirits and Fusion Research in North America
田島俊樹
TAJIMA Toshiki カリフォルニア大学アーバイン校ノーマン・ロストーカ主席教授,TAE 科学担当役員
(原稿受付:2016年10月27日)
故 Rostoker 先生は,国家資金に依拠せず私的ファンドで,現行とは違う新たな核融合研究方法論を開闢し た.それには(1)end in mind と考え,点火条件が難しくなっても中性子非発生燃料を軸に据え,核融合炉の技術的 困難の大幅な減容を図る.これは,(2)'time is money'なので,炉技術開発時間を短縮することが,最も時間やコ ストの圧縮になるからである.それを実践するには,(3)'fail fast'と心し,最もリスクの高い課題から取り組 む.これらの考え方はビジョンが壮大で人類社会のためだと共感をいただけ,(4)social impact 投資をしようとい う方々も出てくるのではないか.また,研究の雪崩的展開を誘引するためにも,(5)low-lying fruits を早々に刈り 取りながら,本丸の核融合炉へと迅速に進んでいく.これが起業精神に立脚した核融合開発の哲学の概要である. Keywords:
end-in-mind, 'time is money', 'fail fast', social impact, low-lying fruits
J. Plasma Fusion Res. Vol.93, No.1 (2017)21‐23
2.1 なぜ核融合研究には時間が掛かるのか?
「核融合の完成は何時でしょうか?」とよく聞かれる. よく冗談ぽく言われるのは「その問いが発せられてから30 年後」.1940年代,当時の最優秀な人材が核融合に集結し ており,その時はもうすぐかと思われていたこともあり, 核融合研究は当時極秘裏に進められていた.そうはいかな いことがわかり,秘密が解け公開の研究となる.核融合の 存在証明自体は,星や水爆で実証済みだが,その制御が問 題であった.
れる.例えば,プラズマの一つの不安定性を見つける→そ
のより詳細な研究→非線形領域の研究→各論へ,等々.行
けども行けども課題が限りなく出てくるので,一生涯の研
究分野となりうる.
2.2 別個の方法論は存在するのか?
 もし既存の方法論では,核融合を比較的短期に実現する
ことが容易でないとするなら,何か別のアプローチはない
のか? そういう問題意識で注目されるのは,北米におけ
る企業精神に則った核融合研究の出没である.この研究と
はどういうものなのか? そのベースにある社会活動や考
え方とは何か? 研究存続が予定契約されていない私的資
金で長大な開発はできるのか? それを可能せしむる条件
は何なのか? こうした方法論に関した疑問があるであろ
う.ここではその一般論に触れることは避け,筆者の一体
験と巡り合った哲学を通じてその一端を語ってみたい.
私は,202年-201年と米国を離れ,日本,欧州と渡っ た.戻ってみると,米国における国家研究投資による推進 の様子がこの間に様変わりしていたと感じた.欧州やアジ アで私が主に仕事をしていた高強度場レーザー科学では, 当初世界をリードしていた米国は,欧州に全く後塵を浴び る有様.アジアにさえ負けている.最近は,国家資金によ る核融合でさえ,欧州・アジアに後塵を拝しかかっている ように見える.2.1で述べた一般論に加えて,最近の米国に おける連邦研究資金のあり方が,この問題に拍車を掛けて いるようだ.
author’ s email: tajima@trialphaenergy.com
!2017 The Japan Society of Plasma Science and Nuclear Fusion Research
難しい要因,領域進展に時間がかかる背景は何か?
1 「プラズマ」は無形性を意味する血液プラズマから命 名されたように,我々の相手のプラズマ性とは,無形性で あり,不安定な物質である特徴である.
2 プラズマという遠距離まで相互作用が到達する多体系 では,学問研究が分析的(演繹的)よりも,統合的(帰納 的)サイエンスとしての様相を濃く持つ.これは,研究す ればするほど原理の数が減り簡素化していく素粒子研究の ような領域と対照的に,プラズマ科学は多様性・複雑性を
生ずる学問である.
3 現在のプラズマ核融合研究体制が,その学問の構造に
良くマッチしているのか?
4 アカデミック研究の一つの特徴は,(a)より易しい問 題から始める;(b)自己の比較的狭い専門領域を早くに 確立し,その分野を掘り下げその道の権威となる. つま り「極める」「磨く」といった方法論;(c)この方法論,運 営でより影響力のある研究領域が特化して深く掘り下げら
Norman Rostoker Chair Professor, University of California at Irvine, Chief Science Officer, Tri Alpha Energy
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