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 しかしもしかすると,今米国は私的資金での核融合開発
の端緒に新しい曙光を見つけたのかもしれない.それはな
ぜか?
 連邦政府の研究資金繰りが苦しくなってきているからと
いう理由は,恐らく一端でしかないように思える.新しい
研究・開発の方法論が編み出されてきたことが,より積極
的な理由ではないか? この点に付いて少し論を深めてみ
よう.
私は,1973年 Norman Rostoker 先生の学生としてこの地 アーバインで歩み始めた.今でも忘れはしない1973年9月 に空港に着いたところ,南加の眩しい陽光を背景に濃いサ ングラスを掛けハワイアン T シャツを纏ってサンダルを 突っかけた男の人が私を出迎えてくださった.日本では ギャングみたいな格好のとか表現されかねない風貌であ る.それはとにかく,日本からのぽっと出の無名の学生を 大先生が空港で出迎えてくださるなんて前代未聞のことで ある.私はこの方の人格にいたく感服した.空港からの車 の中からは冗談がやたらと出てくる,そうした情の深い ユーモラスで形式張らない先生である.後年であるが, Dawson,Rosenbluth の両巨匠からも教授を受ける幸運に も巡り合った.Rostoker からは,会ったすぐその年に「も うプラズマの理論は構築され終わったよ.これからは,そ れを使った応用(社会インパクトとここでは言って良いか もしれない)だよ.」と申し渡された.東大で一丸先生から プラズマの理論をやるのなら Rostoker が一番と背を押し ていただいてやってきてこの言葉だったので,暫くショッ クで私は動けない位くらいだったものだ.教授は傲慢さは 微塵もなく悪戯っぽくなつっこく話しているのである.こ うした薫陶を彼から受け今日の私はある.
欧州から米国に201年に戻り,TAE の研究担当重役を お引き受けすることにした.その前からも Rostoker や TAE の哲学には1973年以来ずっと連続的に私は浸され洗 礼されてきた.
2.3 Rostokerの哲学
Rostoker が長年の労苦の末編み出し TAE が集積して来 た哲学の一端をここで紐解いてみよう.彼は,数学力がと んでもなく突出した物理学者で,それでいて出自は実験地 球物理屋である(詳しくは2014年に亡くなった彼を記念し た本[1]をご参考に.その数学力を発揮し固体物理の古典 的基本手法「汎関数バンド理論」(共著者3名の頭文字を 取って KKR 理論)を彼はプラズマへ転向する前に書き上 げていた.K なる Kohn 先生はこうした仕事でノーベル賞 を授与された)Rostoker は,私が彼と知り合ってからは ずっと孤高で直言の一匹狼のイバラの道を強靭な精神力と ユーモアで持ち堪え歩んできた.自分の哲学と学風を周り のそれと違っていても恐れず通したからである.長い間国 家資金は,彼の名声をしても渺々たるもの.198年には, ついに国の資金を諦め私的資金に切り替え,TAE 会社を 立ち上げた.
 私的資金であるから上記した「一つの専門に特化して掘
り下げそれで有名になってから」などという悠長なことは
言っておれない.また,連邦政府資金での上述した研究体
制や成果のペースについての反省に立った別個の方法論を
編み出さねばならない.これらを私なりにごく手短に略記
してみよう:
1 狭い分野の研究に特化して長く長く研究を続けようと するのでなく,我々は fail fast(「早く失敗せよ」)と言うの である.これは,Google などシリコンバレーでの合い言葉 でもある.つまり,研究は最も不確かな危険の高いテーマ から始めよ.もし最もリスクの高い問題で当該研究が頓挫 すれば,その先の投資の無駄が最小化されるから.アカデ ミックな publish or perish(「出版せねばくび」)ではなく, 文字通り time is money(「時は金なり」)である.この精神 での運営のため,事業が死なないように死にものぐるいで 働き知恵を出す.最も高いリスクの第一関門がクリアされ れば,リスクが次に高いテーマへと移って行く.Rostoker 先生の研究歴はとても長く,4~50の PhD 学生を出してお られるので,その全容をここで紹介はできない(文献[1]を ご参照).ただ,ここで述べる4つの要素などを満足でき る概念として,彼の一生の結晶である加速器と磁気閉じ込 めの概念の融合とそのために最も自然な配位として,プラ ズマの内部に磁場の無いところも存在するような「磁気反 転配位」(FRC)の選択にたどり着いたのである(この配位 については,浅井,郷田両氏の論文を参照).FRC プラズ マは磁場が弱いので「甲羅がない幼児」のように最初はふ わふわして潰れやすく,甲羅のある昆虫のような強い磁場 を持つ配位と異なり,その生成時最も脆弱である.この FRC では,加速器が繰り出すビームが恰も自転車の輪が回 転をすればするほど安定化するように,初期運転のマス ターから始まり,不安定性の制御,輸送の改善などへと 徐々によりリスクの低い達成課題へと続けていくのであ る.
2 核融合プラズマ科学はどちらかと言えば統合的・帰納 的学問なので,「入り口から入って奥を極める」というの ではなく,end in mind(「出口から遡れ」)と考える.この 方が学問体系の構造と方法論のそりが良さそうだ.入口か ら入り奥を極めようとすると至る所で道が分岐し複雑化し ていくので,まず出口を見極めそのゴールに到達する戦略 を考えるというアプローチである.例えば,核融合炉を考 える.TAE(など)極一部を除き,ほとんどの研究所では 融合温度の最も低い D-T 燃料に限られている.Rostoker 先生は end in mind で,D-T 反応が多量の高エネルギーの中 性子発生を伴い,燃料点火の物理条件は容易でも,核融合 炉の技術の困難が重積することを見抜き,物理的に敷居の 高い高温の燃料 p-11B(反応物は電荷のあるアルファ粒子の み)を選んだ.物理の敷居を敢えて高くしても,その後に 来る技術面の困難が著しく軽減するという戦略は1の fail fast の哲学とも噛み合う.
3 私的資金研究では,究極的に投資に見合う利潤を挙げ る事業でなければならない.そのためには重箱の隅を突く ような研究はさっと通り過ごし,本質解決に突進する体質 を身につけねばならない.こういうと,研究は秘密秘密で 生き馬の目を抜くような研究態度と思われるかもしれな
Journal of Plasma and Fusion Research Vol.93, No.1 January 2017
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